社業の伸展に貢献した社員に報いる工夫の一つだった。

税金は法律で定めなければ課すことができない租税法律主義が大原則だが多様な経済活動への課税をすべて法律で定めることは難しい。
課税当局が裁量で判断を下すとき、それが良い裁量になっているかどうか。
実際に手にしていない収入になぜ税金がかかるのか。
昨年10月8日。
20年以上にわたりモルガン・スタンレー証券に勤めた元社員の男性は天をあおいだ。
所得税額の妥当性を巡る国税当局との訴訟に一審で敗訴した時のことだ。
08年にリーマン・ショックが起きたころ。
モルガン・スタンレーはストックユニットと呼ぶ形で給与を払っていた。
会社が支給するの は一定数の自社株で、インサイダー取引を防ぐため同年9月8日に社員が受け取った株が売却可能になったのは10日後の18日から。
だが、その売却禁止期間中の15日にリーマン・ブラザーズが破綻。
43ドルだった株価は売却解禁の時点で18ドルに暴落していた。
課税評価に用いるのは社員が受け取ったときの株価か、換金したときの株価か。
国税当局は株を受け取った時点で収入があったとみなすと判断し暴落前の株価で税額を計算。
東京地裁判決も当局の判断を追認した。
あまりに理不尽だ。
当時の社員約50人の3件の税務訴訟が今も続き、10年戦争の気配すら漂う。
経済や企業活動は日々進化する。
実態に合わない税法の穴が広がれば、当局の裁量余地がどんどん広がり、常識に反する課税 が横行しかねない。
企業関連税制に詳しいニューホライズンキャピタルの安東泰志会長兼社長は懸念する。
ストックユニット制度が米国で広がったのは1980年代後半。
社業の伸展に貢献した社員に報いる工夫の一つだった。